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第1部 二章【闇メン】その5 第三話 最後の麻雀

Penulis: 彼方
last update Terakhir Diperbarui: 2025-10-31 18:30:00

28.

第三話 最後の麻雀

 工藤強(くどうつよし)は狩場を探していた。今までは自宅から程よい距離にあって手頃な雀力のいわゆる『カモ』たちが多い『ラッキーボーイ』を狩場にしていたが最近は思うように稼げない。

(あの小僧。あいつがいると稼ぎにならない)

 そう、椎名のことである。

 工藤にとって椎名は目の上のタンコブ。そこにいられると困るのだ。

 椎名はマナーはいいし清潔感もあるし打牌速度も申し分ないので普通のお客さんなら同卓したいと思うだろう。だが、工藤は違った。元プロの工藤にとって麻雀は本気で稼ぐためにやってる副業。職人として打っているのだから負ける予定は一切ない。しかし、そこに現れてしまった自分より強い存在。

(何度か対決してみたが、あれはだめだ。あれには勝てない)と工藤は悲しいほど悟ってしまった。

 椎名と打つとことごとく自分のさらに上を行かれる。しっかりとした読みをしても自分の読みのそれすら読まれているという恐ろしさ。

 工藤は椎名との麻雀はやればやるだけプライドを粉砕されると感じて撤退することを決めたのだ。その判断力はさすがだった。

(今日は津田沼まで遠征してみよう…… もう、椎名とは打たない方がいい。どこか場末の、絶対勝てそうな店で一度砕けたプライドを修復した方がいい)

 そんな思いから工藤は津田沼の『あおい』にやってきた。

 あおいの入り口は雀荘には珍しい一階にある作りだった。

 ラーメン屋のような暖簾があり『あおい』とだけ書いてある。窓には大きく【麻雀】の文字。

ガラガラガラ

「いらっしゃいませ!」

「初めてなんだが、打てるかな」

 麻雀職人工藤強の最後の麻雀が始まろうとしていた。

◆◇◆◇

 勝田台から大和田、八千代台、実籾を通過すると大久保の線路沿いの道に出る。そこまで行けばあとは真っ直ぐブッ飛ばしてけば津田沼に到着だ。

 ヤシロは赤信号にもあまり捕まらずビュンビュン風を切って進む。

~~♪♪

 鼻歌が自然と出る。歌っているのは麻雀打ちならみんな知っている曲でテレビ対局のオープニングでも使われている名曲『戦場の足跡』だ。

(よし、到着ね!)

「……なんか、ラーメン屋さんみたいな店構えね」

ガラガラガラ

「いらっしゃいませ! あ、もしかして福島さん?」

「あ、はい。福島社(ふくしまやしろ)です。オーナーさんでしょうか?」

「はい、私がオーナーの田所(たどころ)です。今日はよろしくお願いします」

 オーナーは女性だった。聞くとご夫婦で経営していて旦那様はいま奥で休憩しているのだという。

「こちらこそよろしくお願いします。それでは抜けのサインはアイスアリアリ(アイスコーヒーにガムシロとミルクの両方を入れたもの)でお願いできますか」

「わかりました、抜けてもらいたい時には私からアイスアリアリをサイドテーブルに置きますので、そのタイミングでラスハンコールして下さい」

「承知しました」

「まだ、店を開けたばかりだから誰もいないけどそろそろ来店あると思いますのでそれまで待ち席でルール確認でもしてて下さい」

「分かりました、そうします」

 店内は換気中で心地良い風が窓から窓へと吹き抜ける。

 静かな店だ。BGMすらない。一応は通りに面しているが車通りは少なく、遠くにいる小鳥のさえずりすら聞こえてくる。

 ヤシロはルール表を広げてもう一度店ごとで違いのありそうな特殊な部分を確認した。

・アタマハネあり

・鳴き祝儀

・誤ロンは倒牌後チョンボ

「何か飲み物入れますか?」

「ありがとうございます、でも大丈夫です。コンビニで買ってきたのがあるので」

 ヤシロはコンビニ袋から缶の紅茶を取り出す。

(やっぱり朝は紅茶よねー)

フンフフンフフーン♪

(輝くように~ 燃えるように~♪)

 また気付いたら『戦場の足跡』を鼻歌していた。ヤシロはこの曲がお気に入りで気付いたら勝手に出てきてしまう。

 しばらくのんびりとくつろいだ。この時間にも時給が発生しているのが裏メンバーの良いところだ。それはもちろん闇メンも同じである。

────

──

ガラガラガラ

「いらっしゃいませ!」

「初めてなんだが、打てるかな」

(なんだかいかついスキンヘッドがやってきたわね)

 工藤強である。工藤はこの時は夢にも思わなかった。この、若い女が数時間後には自分を完膚なきまでに打ち負かすとは。

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